円滑なコミュニケーションは、職場だけでなくどんな人間関係でも大切です。エナベル松戸の就労移行支援でも、コミュニケーションスキルを向上させるための集団プログラムやワークを行っています。
今回は、コミュ力向上に効果的と言われる「アサーション」を学ぶプログラムの様子をご紹介します。(このプログラムは、2019年12月に実施されました)
- そもそもアサーションとは?
- 高度な対人スキル・アサーションの効果
- アサーションがうまくいく3つのポイント
- アサーションを邪魔する要因を普段の会話から振り返ろう
- アサーションの方法の基本を学ぼう!
- 終了移行支援のアサーション活用ワーク
- アサーションを学んだ振り返り
そもそもアサーションとは?
アサーションとは本来「主張」「断言」という意味を持つ英語です。精神医学においてアサーションの考え方が登場したのは1940年代のこと。抑圧された環境で精神的な不調を抱えている人は、自らアサーション(主張)することで人間的な回復が可能であるという考えられたのが始まりです。
その後20年あまりに渡って、アサーションは行動療法や対人関係療法の一環として研究が進められてきました。この考え方は精神医学分野にとどまらず、人種差別や性差別問題においても権利を主張する考え方として応用され、一般に広まったと言われています。
研究が進むにつれて、アサーションの考え方はあらゆる対人関係に活用できることが分かってきました。現在では、相手に嫌な思いをさせずに自分の意見を表現するコミュニケーションスキルとして、教育現場や企業研修などでも取り入れられています。
高度な対人スキル・アサーションの効果
実際に人と接する時、アサーションはどのような効果をもたらすのでしょうか。今回の集団プログラムでは、次の3つをアサーションの効果として共有しました。
- 相手を傷つけず、自分の望むものを要求できる
- 相手を傷つけず、ノーと言える
- 相手との関係を損ねず継続できる
「相手の反応が怖くて、言いたいことが伝えられない」「話しだすと、お互いに傷つけあってしまう」といった対人関係の悩みを抱えやすい就労移行支援の利用者の方々にとって、アサーションについて学ぶことは日常生活や就職に大いに役立つことが期待できます。
アサーションがうまくいく3つのポイント
アサーションは、相手に察してもらうのではなく、言葉で事実と感情を伝えるコミュニケーションです。そのために、次の3つのポイントを意識しながらワークを行いました。
1.会話の目的を明らかにする
会話の目的とは、なぜこの会話をする必要があるのかということ。例えば「体調が悪いことを○○さんに理解してもらいたい」といったことです。目的を定めておくと、話しているうちに伝えたい内容がズレるといったことが起こりにくくなります。
2.どんな関係でありたいか考える
例えば学校の友人や職場の同僚のような、毎日のように顔を合わせる相手だったら、良好な関係を保ちたいものですね。伝えたい言葉に詰まったら、この人と今後も良い関係でありたいのか・そうでなければ本当に親しくする必要はないのかを、もう一度考えてみましょう。
3.自分を大事にする気持ちが満たされるかどうか考える
自分を大事にする気持ちのことを「自尊感情」と表現します。会話をすることによって、自尊感情が満たされるかどうかを考えてみましょう。つまり、気持ちを伝えた後で自己嫌悪や苦痛を感じたり、罪悪感がないかどうかです。
このとき、会話の結果が自分の望む通りになるかどうかは問いません。例えば、自分の申し出を断られるなど、会話が自分の望む方向に進まなかったとしても、会話を通じて自分の気持ちが満たされるかどうかが大切になります。結果がどうあれ、伝えた方が自分のことも相手のことも大事にすることになるのです。
アサーションを邪魔する要因を普段の会話から振り返ろう
アサーションは良好な対人関係を築く上で大切なスキルです。その一方で、アサーションの実行を妨げる要因があることを知っておく必要があります。
- 自分の欲求がわからない・自分がどうなりたいかわからない
- 対人関係を妨げる思考(偏った認知)がある
- 恐れ、不安などの感情がある
- 圧倒されるような感情(怒り、憎しみ、妬みなど)がある
- 相手を攻撃する会話の癖がある
- 相手を回避する会話の癖がある
相手を攻撃する会話グセとは
相手を攻撃する会話の癖とは、口調がきつい・大声で怒鳴るといった表面的なタイプや、相手を巧妙に操作して自分の思い通りに動かすタイプが当てはまります。「自分が正しい」「自分の方が勝っている」という気持ちが根底にある傾向があります。
感情に巻き込まれて攻撃という行動に出るものの、やり取りの後で自尊心が傷ついたり罪悪感が生じたりと、自分の気持ちが満たされることはありません。
相手を回避する会話グセとは
自分の気持ちを主張しないことで、相手との関わりを回避するタイプです。あいまいな表現でお茶を濁したり、不本意な事に黙って従ったりといった姿が見られます。「どうせ言ってもだめだ」「人の気も知らないで」という考えに陥りがちです。
心に欲求を溜めこんでしまうため、相手との関係が苦痛になって体調を崩してしまうことにもなりかねません。
アサーションの方法の基本を学ぼう!
今回の集団プログラムでは、アサーションの基本となる形をもとに実践することにしました。
基本形は「みかんていいな」!
- み…見てわかること【客観的事実・状況を描写する】
- かん…感じたこと【自分の気持ちを表す】
- てい…提案の形【具体的に相手に伝える】
- いな…否(いな)と言われた時の代案【相手に否定・却下されたされた時の対案】
これを具体的な会話に当てはめてみると、以下のようになります。
- み…「今、物が出しっぱなしになっています」
- かん…「私は気疲れしてしまうので」
- てい…「片づけていただけますか」
- いな…「もし嫌なら、片づけやすい方法を教えて」
就労移行支援のアサーション活用ワーク
これらのことを踏まえて、アサーティブな会話を集団プログラムで実践してみました。
「AさんはBさんにコーヒーを淹れてもらいたいがBさんは断りたい」という場面を、2人組になってロールプレイします。Aさんは攻撃的な接し方をする役・Bさんは受け身で消極的な対応をする役です。
攻撃的なAさん役を演じた人には、この時のAさんの気持ち・Bさんの気持ちを考えてもらいます。また、Bさん役を演じた人にも同じように気持ちを考えてもらいます。
そのうえで、AさんとBさんがお互いにアサーションを活用するとどんな会話になるか、実践してもらいました。
アサーションを学んだ振り返り
高度な対人スキルと言われるアサーションを学んだ就労移行支援の利用者の方々。「アサーションという言葉自体を初めて知った」という方も多く、熱心にプログラムに参加してくださいました。
「アサーションについてもっと学んでコミュニケーション能力を身につけたい」「自分にとってプラスになった」と感じた方が多く、「たどたどしくても自分の考えを伝えられたような気がする」と実感した方もいました。
その一方で、「理解はできたが実践するのは難しそう」という感想も。少しずつでもアサーションを日常に取り入れ、自分も相手も心地良くなるコミュニケーションを取れるようになりたいものですね。